EU離脱の影響と意味する事
まず没落の意味を議論しようということなんですけども、まずブレグジット、英国の EU 離脱の話題から入りたいと思います。
当たり前の話ですけれども、ブレグジット後の英国は、EU加盟国としての特権を失うということになります。
しかしながら、それは実のところ英国にとって実は大した問題ではない。
というのは、単に特権を失うといっても、米国、中国、日本も入れていいんですけど、多くの非EU加盟国と同じ条件で取引を行うという、それだけの話だということです。
したがってまあ大した問題じゃないだろうと。
そもそもあまり知られてないかもしれませんが、英国のGDPに占めるEU 向けの輸出というのは15%程度に過ぎないと。
しかも、英国の対EU貿易収支は赤字です。
従って、欧州単一市場のアクセスによる貿易の恩恵っていうのは、実は英国に関してはそれほどあったわけでは、そもそもないという事です。
それどころか、英国がEUに加盟した1973年から40年間で英国の商品輸出のEU14カ国向けのシェアというのは、実は2%低下しています。
逆に、英国が加盟する前の1960年から1972年の間だと、同じその欧州14カ国向けのシェアは実は12%増えていました。
要するに欧州市場に、EUに加盟した方が、輸出が減っているということですね。
しかも、欧州単一市場が発足した1993年から2011年までの間、単一市場に属しない国の多くが、英国よりも欧州単一市場への輸出を伸ばしていましたということです。
したがって、輸出先としてのメリットというのは実はあまりなかったと。
英国の実質賃金が8%低下した理由
その一方で、英国は2008年から5年間で実質賃金が8%も低下しました。
これは、低賃金労働者が移民として流入し続けたためで、実はその移民の純増数は2015年に33万人を超えたということです。
要するに、安い低賃金の労働者がいっぱい入ってくるので賃金が下がってしまうということですね。
しかしEUに加盟している限りは、ルール上、英国には移民の流入を制限する権限がありませんので、実質賃金の低下を止められないと。
でももしブレグジットすることによって移民の制限が可能となれば、実質賃金の低下の圧力というのは緩和することになりますので、英国の労働者は恩恵を被る、ブレグジットによって恩恵を被るでしょう。
EUに存在しない民主的正当性
今の問題は経済の問題ですけど、問題は経済だけではなくて、まずEUの加盟国というのはEUの意思決定に服さなければならないですけれども、EUの意思決定という、各国の有権者による選挙の洗礼を受けていない欧州委員会や加盟国の指導者によってなされます。
要するに民主的正当性がないんですね、EUの意思決定、それに服さなきゃいけないということです。
要するにEUの決定というのは、加盟国の民主的な意思決定を制限し、国民主権の一部を剥奪しさえするということで、 EUというのは実に反民主主義的な仕組みであります。
ということは、イギリスがブレグジットによってEUから離脱をすれば、先ほどの実質賃金の低下圧力が緩和するだけではなく、英国は民主主義を取り戻すということになります。
もしそのことが明らかになれば、ブレグジットは他のEU加盟国でも、じゃあ離脱した方がいいんじゃないかという動きを加速させるかもしれないというふうな議論もあり得て、実際、親EU派はブレグジットによって連鎖的に離脱が広がることを懸念しています。
EUが英国のEU離脱に課した厳しい条件
ところが実際には、残念ながら、ことはそう簡単には運ばないのであります。
それはなぜか。
問題は、離脱後イギリスがどう良くなるかという問題にあるんじゃなくて、離脱までの過程が大変だという、離脱後の状態が問題なんじゃなくて、離脱までの過程に実は問題があります。
英国は2019年3月29日までにEUから離脱しなければならないということになっていまして、それまでに英国は離脱の条件についてEUと合意をしなければなりません。
しかしあと半年を切っているというのに、その合意のメドが未だに立っていないということです。
もし合意できない、合意に失敗した場合は合意なしの離脱ということになります。
しかし、合意なしの離脱について英国政府は全く準備が完了しておりませんで、いくつかの分野、いくつも分野はあるんですけど、EUプログラムと基金、これに関しては準備が完了してますが、
他の9分野、国境、移民、市民、あるいは農業、漁業、食料、保険、運輸、サービス、エネルギーと環境、競争、税とデータ、司法、こういった分野については合意なしの離脱の場合、どうしたらいいかというのは何の準備もできていないということです。
今交渉、難しい交渉をやっていますけど、仮に11月にEUと英国が合意に至ったとしても、合意の後は英国議会においてEUとの合意を批准し、英国法に直して法制化をするとともに、膨大な数の関連法令を整備するという作業がまだ残ってるわけですけど、議会の会期がもうりわずか2カ月しかないと、まあもう無理ですね。
仮に以上の作業を奇跡的に成し遂げたとしても、次に英国は、今度は2020年の12月までの移行期間中にEUとの新たな関係を決める新たな通商協定に合意をし、かつ批准をしなければならないんですけれども、これはもうほぼ絶望的といっていいでしょう。
どうしてかというと時間がなさすぎる。
例えばEUとカナダは自由貿易協定を締結するまでに7年も費やしたわけですね、そんなの無理に決まってると。